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エカチェリーナ・ロマノヴァ

エカチェリーナ・ロマノヴァ

​彼女はエカチェリーナ・ロマノヴァ。やがて大帝と呼ばれることになる女。

修羅文庫 / キャラクター物語集

戦争の花嫁

帝国は敗れつつある。

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帝国は敗れつつある。 エカチェリーナは長杖を振るい、穢れし者の頭を打ち砕いた。しかし頭を失った胴体は、なおも凄まじい運動エネルギーを纏ったまま、ツァーリの尖兵へと叩きつけられる。蟲群(ちゅうぐん)に死という概念はない。まるで意志を持った天災のように——無差別に貪り、無差別に踏み潰す。 撃ち、薙ぎ、打つ。 プラズマ砲では、潮のように押し寄せる蟲群を抑えきれない。穢れし者が翅を震わせる羽音が、イオンエンジンの咆哮すらかき消す。トラックほどの重さを持つ甲殻の怪物が幾千と押し寄せ、帝国の防衛陣地を瞬く間に押し潰した。 撃ち、薙ぎ、打つ。 惑星から離脱する艦艇が次々と飛び立つ。乗り込むのは、帝国の高位の重臣たち。ツァーリ、ピョートルとその側近たちもその一艦にいた。陰鬱な空の下、その金色の船体だけが異様なまでに輝いている。 撃ち、薙ぎ、打つ。 エカチェリーナはオルロフ式重杖を旋回させながら蟲群の只中で戦っていた。周囲はすべて敵、すべてが穢れし者。包囲されていることの利点はただ一つ——狙いを定める必要がないことだ。手にした武器を振るい続けさえすれば、敵は勝手に沈んでいく。蟲群はそれほどまでに純粋だった。エカチェリーナが噴射ジャンプを放つと、数体の穢れし者が空中で衝突し、彼女が一瞬前までいた空間を、後方の蟲群が瞬時に呑み込み、宙に逃れた獲物を追った。 撃ち、薙ぎ、打つ。 エネルギーには限りがある。射撃は多数の敵を屠れるが、湧き出て尽きぬ蟲群の前では焼け石に水でしかない。安定した殺傷力を生み出せるのは、ただ運動エネルギーによる打撃のみだった。 戦友が次々と倒れていく。離脱した艦がまた一隻、地上に墜落し、巨大なキノコ雲を上げた。衝撃波が一瞬、蟲群の羽音をかき消す。エカチェリーナは一瞬意識を失いかけたが、動力装甲に内蔵された覚醒装置がすぐに彼女を呼び戻した。わずかな失神の隙に、蟲群が彼女に襲いかかっていた。彼女は噴射の向きを変え、空中で背負い投げのように穢れし者を放り投げると、スカート装甲に残された最後の精霊ミサイル十二発を放った。青い光が閃き、彼女の周囲に黒緑色の血霧の輪が咲いた。 「死する前は、皆ツァーリの刃」——刷り込まれた祈りの言葉を唱えながら、彼女は重杖を振るい続け、蟲群を薙ぎ払った。数万に及ぶ打撃の果てに、オルロフ式重杖の超硬合金にはついに亀裂が走り、砕け散った。燃料もついに尽き、彼女は地面へと激しく叩きつけられた。蟲群の巨大な複眼が炎を照り返しながら、空から急降下してくる。 一体、二体、十体、二十体。穢れし者が次々と彼女の身体にぶつかる。軋み音を立てる動力装甲だけが、最後の生命維持空間を辛うじて支えていた。蟲群の隙間から見上げる空は、少しずつ小さくなっていく。 彼女は見た。黄金の船がゆっくりと、しかし確かに上昇していくのを。全開にされた力場障壁が、蟲群の衝撃を受け止めている。ツァーリさえ逃げ延びれば、帝国は敗れたことにはならない。 だが、地平線の彼方から巨大な影がゆっくりと立ち上がる。黄金の船よりもなお巨大な穢れし者が身を起こし、地上のあらゆるものを無視して、あの目もくらむ黄金の信号源だけを見つめていた。 エカチェリーナは目を閉じた。 母蟲(ぼちゅう)は巨大な顎を開き、船へと迫る。障壁は一度目の衝突を耐え、二度目も耐えた。三度目——黄金の船の中枢が、彼女のよく知る色に輝いた。彼女自身が許可に署名した、精霊ミサイル起動時にのみ放たれる、あの青い光だった。 母蟲が障壁を噛み破った瞬間、黄金の船は内側から弾け飛んだ。船体は、輝かしい紋章も、重臣たちも、ツァーリ本人もろとも、母蟲の顎の中で眩い白い太陽と化した。その光は、閉じた瞼すら貫くほどだった。 エカチェリーナが目を開けると、裂けた雲間から陽が差し込んでいた。母蟲の残骸と黄金の船の破片が飛び散る様は、まるで豪奢な花火のようだった。母蟲を失った穢れし者たちは、意志なき骸となって次々と崩れ落ちていく。彼女は身体に積もった蟲の死骸を押しのけ、半ば廃品と化した動力装甲を引きずりながら立ち上がり、声を上げて笑った。 あの船は、最初から逃げるためのものではなかった。 ── 残存する艦艇がエカチェリーナの周囲に停泊し、ツァーリの刃たちが彼女の前に跪く。オルロフが駆逐艦のハッチから飛び降りてきた。彼は彼女の傷を尋ねようとはせず、ただ動力頭冠を差し出した——本来ならツァーリに属するはずの、至高の権力の象徴を。彼女はそれを受け取り、自らの手で戴いた。 ツァーリの帝国は滅びた。だが、彼女の帝国はいま産声を上げたばかりだ。次なる一手は、奪われた入江の奪還。いつの日か、銀河のすべてが彼女の足元にひれ伏すだろう。 彼女はエカチェリーナ・ロマノヴァ。やがて大帝と呼ばれることになる女。だが今はただの戦争の花嫁。手にした花束を、次なる戦場へと放り投げるだけだ。