地下街に新しいパンケーキ屋がオープンした。カティはいつか絶対食べに行こうと思っていた。行列が嫌いな彼女は、オープン直後の人混みを避けるために一か月以上我慢し、しかもデパートが開店したその瞬間に店の前へとやって来た。待ちに待った気持ちで窓際の席を選び、しばらく迷った末に、ようやく抹茶いちごスフレを注文する。もし美味しかったら、次はチョコレートアイスパンケーキにしよう。 パンケーキが来るのを待つ間、カティは目的もなく窓の外を眺めていた。もう十二月だ。街はすっかりクリスマスの雰囲気に包まれ、地下街も例外ではない。星、鈴、トナカイに雪――人工の地下洞窟をクリスマスの装飾が埋め尽くし、各店の店員たちもクリスマス仕様の「武装」に身を包み、資本主義をテーマにしたこの地下迷宮でサバイバル戦を繰り広げている……そんな中身のないことをとりとめもなく考えていると、クリスマスコスチュームを着た一人の女の子が目に留まった。 女の子は赤いワンピースにサンタ帽を被り、タブレットを手に熱心に道行く人へ声をかけ、誰の異能にも興味津々といった様子でアンケートへの記入を頼んでいる。何かの営業かな?大異能時代のこのご時世、石を投げれば異能者に当たるくらいだが、異能調査を名目にした営業というのは意外と珍しい。異能の意味は人それぞれだ。得意げに大声で自慢する者もいれば、慎重に、口を閉ざして誰にも知られたくない者もいる。この調査、本当に営業の役に立つのかな?客層の切り分けが目的なのかな?それとも炎上商法まで狙ってたりして?カティは熱いコーヒーをすすりながら、目の前に広がる少し非日常な光景を興味深く観察していた。 パンケーキが運ばれてきて、彼女はさまよっていた思考をひとまず引き戻す。スフレの上にはいちごが一周並べられ、真ん中には抹茶のジェラートが鎮座し、その周りを白い生クリームが彩っている。皿の上もクリスマスの雰囲気で満たされていた。抹茶ジェラートのほのかな苦みといちごの甘みが絶妙に響き合い、ふわふわのスフレが口の中でとろけていく。カティは小さな、けれど確かな幸せを一口ずつ味わっていたが、脳は甘いものの刺激でまた動き出してしまう…… そういえば、自分の異能とは一体何なの? そもそも、異能という言葉自体が曖昧模糊としたものだ。たとえば、パンケーキを美味しくする能力は異能と言えるのかな?その日の気温や湿度、食材の品質や鮮度に応じ、客の心身の状態を巧みに観察しながら、ミリグラム単位で配合を調整し、誰もが幸せを感じられるパンケーキを作り上げる――これは間違いなく異能の範疇に入るだろう。では、飛行や身体能力の強化、念動力といった能力はどうか……できる人、多すぎるし。最初に立ち上がって二本足で歩いた猿も、ある意味「異能猿」だったのかもしれないけど、空を飛べる人間がどんどん増えていけば、いつか異能鎮圧局の連中が「飛行」を異能のリストから外してしまう日が来るかもしれない。 コーヒーを飲み干すと、カティは近づいてくるサンタガールを巧みにかわし、大学方面行きのライトレールに乗り込んだ。ついでに材料を買っていこう。授業にはほとんど出ていなくても、造形課題さえ提出すれば退学を免れる単位は揃う。モデラー兼アーティストとして、カティは自作のフィギュアを制作・販売する傍ら、ラピッドプロトタイピングの依頼も請け負っている。図面を短時間で精密な実体へと変換できることが彼女の強みだが、量産のためには自作の模型を3Dスキャナーでデータ化する必要がある。学校の3Dスキャナーは自分の持っている機材より遥かに性能が良く、この馬鹿高い機材を使い続けるためなら、留年すら厭わない。 今日の最初の仕事はクリスマス天使だ。依頼主からはデザインを自由に決めていいと言われている。さっき見かけたサンタガールを参考にしてもいいかもしれない。彼女は十二分に気合を入れる。目の前で白い塊がゆっくりと蠢き、形を変えていき、クリスマス衣装をまとった1/7スケールフィギュアへと姿を変えた。それを3Dスキャナーでデータ化する。この工程を何度か繰り返し、いくつかの異なるポーズとデザインのデータを揃えたところで、続きは依頼主との打ち合わせが必要になる。どれだけ技術が進歩しても、確認とすり合わせの積み重ねこそが仕事を円滑に進める秘訣であることに変わりはない。「そして依頼主に選ばれなかったデザインは、そのまま課題として提出しておしまい。これがカティの人生、うまくいく秘訣ってわけ!」誰もいない場所で腰に手を当て、カティは小さな声でそう自慢げに呟いた。 ― 深夜。パンケーキのために早起きした一日は、いつもより特別に長く感じられた。カティは大きなあくびをすると、自分を呼ぶベッドへと飛び込んだ。だがベッドの寝具に触れることはなく、宙に浮いたまま、常に彼女のそばを漂う白い塊に受け止められる。カティが赤ん坊のように体を丸めるのに合わせて、白い塊も宙で形を変え、伸び広がり、光のない闇の中に彼女を包み込んだ。白い繭のような闇の中で、カティはぼんやりと考える――どんな状況でも十秒以内に眠りに落ちる、これって私の異能かも。次に呼び止められたら、そう答えよう。誰に何と言われても、反論は受け付けないから。 ― 異能鎮圧局ファイル: 氏名:カティ・ローズ 異能:白い蠕虫(ホワイトマター) 精神系 C カティ・ローズと共に生まれた、浮遊しながら蠢く白い塊。彼女は自分の体のようにこの白い塊を操ることができ、あらゆる形に変形させ、自在に結合・分離させ、一定範囲内でゆっくりと移動させることも可能。白い塊は乾いた、ほのかな化学薬品のような匂いを放ち、手触りはスエードに似ている。変形時には周囲の気温が下